文月 ———暦日記
◆ 一期一会
好きな男がいた。![]()
男のほうでもわたしを好いてくれ、わたしたちは、ともに生きる約束をしたのだった。これまで仕事ばかりしていたわたしは、ひとと話したり、散歩したりするのがたのしくてたまらない。
このあたりいちばんの働き者、という評判だったから男も、わたしと出会うまで、仕事のほかを知らずに生きてきたのだろう。ふたりで見ること、ふたりで食べること、ふたりで話しながら、あるときはふたりして押し黙って歩きまわることは、こんなにもたのしいものなのか……。そういう、お互いだった。
わたしも男も、いつしか仕事のことを忘れたようになっていく。心配した父からは、再三、仕事をするようにと忠告を受けた。
「はい、明日からきっと」
と答えながら、やはり仕事をはじめる気にはならなかったのだ。そしてついには父が、というより運命が、ふたりを引き離してしまった。会えるのは、年に一度だけという達し。1 年に、1度だけ……。
*
子どもだったわたしは、七夕のものがたりを、こんなふうに———つい、現在(いま)のわたしの脚色も加えてしまったが———わが身に置き換えた。わたしは、織姫(おりひめ)、こと座のベガ(※)である。織姫になって、哀しんだのだ。七夕伝説は、幼ごころに重くのしかかった。
これほど気の合う伴侶と、年に1度しか会えないなんて、そんなのは別れに等しいというふうに思えた。1年間というのも、幼いわたしには途方もなく長い長い日日だった。
夫婦が離ればなれに暮らす。
そうやって何年も絆を結んで生きている夫婦を知ってもいるし、夫婦のあり方などそれぞれだとも考えている。1年に1度会うだけの夫婦だって、あっておかしくはないだろう。そも悠久の宇宙空間にてきらめく星星のことだ、たとえ1年に1度会うだけだとしても、ひとの世のつながりよりもはるかに長く、いや永遠につながっているともいえるのだし。
長ずるにおよんで、七夕のものがたりから「一期一会」を連想するようになっていた。
そうして「一期一会」は、日本に根ざした、もっともうつくしい思想だなあ、と思うまでになった。
長くつづくとか、いつも一緒とか。ものごととの出合い、ひととの出会いは、そこだけにあるのではないと思いたい。たとえ一度きりのことでも、忘れないでいることもある。人知れず胸のうちに深く根ざすこともあって、それはふとしたときに胸からぽっと浮かぶのだ。浮かんで、胸の主を支えたり、思い深くしたり。そうでなくとも、なつかしさで彩ったり。
このごろわたしは、遠い日のことを探したり、遠いひとを探さなくなっている。「一期一会」の原のなか、丈高い草の根元にじっとしゃがんで、なつかしんだり、思い返したいような気持ちで。
※こと座の一等星が、ベガである。ベガは、はくちょう座とわし座のそれぞれの一等星とともに、「夏の大三角形」と呼ばれる。なお、七夕伝説は、中国の起こり、とのこと。
〈ジャージャー素麺(そうめん)〉
材料(4人分)
素麺(ゆでる)……………………………………………………4人分
肉味噌あん
豚ひき肉…………………………………………………………200g
長ねぎ(みじん切り)…………………………………………1/3本
しょうが、にんにく(みじん切り)…………………………各1片
豆板醤(辛いので、好みで減らしたり、なくしても)…小さじ2
昆布をつけた水………………………………………………3カップ
酒、砂糖……………………………………………………各大さじ1
味噌、しょうゆ……………………………………各大さじ2と1/2
片栗粉(倍の水で溶いて使う)……………………大さじ1と1/2
サラダ油………………………………………………………大さじ2
ごま油…………………………………………………………小さじ1
きゅうり(せん切り)………………………………………………2本
つくり方
① 鍋にサラダ油を熱し、弱火で長ねぎ、しょうが、にんにくを炒める。
② 豚ひき肉を加えてさらに炒め、豆板醤を加える。昆布をつけた水と酒、砂糖、味噌、しょうゆを加えて、弱火で20分ほど煮こむ(途中でアクをとる)。
③ 水とき片栗粉でとろみをつけ、ごま油をふる。
④ 器にゆでた素麺をもりつけ、きゅうりをのせ、そのとなりに肉味噌あんをかける。
★ 七夕に素麺を食べるというのは、平安時代にはじまっています。宮中での儀式のひとつで、素麺を食べて無病息災をねがったそうです。素麺を、「天の川」に見立てているのでしょうか。このたびは、ちょっと目先をかえて、ジャージャー素麺をこしらえてみました。
★ジャージャー麺は、冷たい麺に熱い肉味噌あんをかけますが、素麺の場合は、
肉味噌あんを冷やしてかけても、おいしいような。
7月には、「夏の土用」がめぐってきます。
土用は、立春、立夏、立秋、立冬の前、
それぞれ18日間のことをさします。
立夏前が春の土用。
立秋前が夏の土用。
立冬前が秋の土用。
立春前が冬の土用。
「土用」と言えばたいてい夏の土用のことを言い、
この日には「う」のつくものを食べるのがならわし。
世間では鰻、鰻、と大騒ぎですが、
「う」のつくものなら、なんでも。
うどん、牛の肉、うに、うるめいわし、ういろう、
梅干し……。
そうそう、やっと梅干しを漬けました。
ことしは、小梅です。
写真は漬けた翌日の様子。
水があがってくるのの、早いこと。

















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