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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあい、娘3人、黒猫との、5人と1匹暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。
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2010年11月 2日 (火)

時間のもてなし

 いろいろのことに区切りがついていたのだと、思われる。
「さてと、」とわたしはつぶやいて、つぎのことを探している。
 自分のすることに「だと、思われる」はおかしいと思うのだけれど、小さなめあてめがけて動きまわる身であってみれば、動きをとめて、「さてと、」とつぶやくことが、なんだか、可笑しくもうれしくもあったというわけだ。
 いろいろのことに、かすかな区切りがついていたのだと、思われた。

 そういえば……、と思いだす。
「衣更(ころもがえ)を手伝おうね」と長女と約束していたのだ。そうしてその日曜日、区切りのついたからだを運んで、「じゃ、はじめようか」という話になる。ふたりで腕をまくるが、衣類の数が少ないせいだろう、衣更は、ものの30分でおわった。
「あっけないほどだったね」
 と云うわたしに、
「ほーんと、お出ましいただくほどのことは、なかったなあ」
 と、娘も云う。
 そんなやりとりをしながらワードローブの扉を閉めようとしたとき、奥のほうに手提げの紙袋が見えた。
「なあに? あれ」
「ああ、それはねえ……、凧の糸」
 凧と云えば、2年ほど前、長女宛てに大きな凧が送られてきたことがあった。
 見たこともないほどうつくしくて、それは、ちょっと恐ろしげな和凧だった。仕事で使ったものを、「ほしい!」と手を挙げて譲りうけ、自分で荷造りをして送ったのだと云う。ある日、近くの公園——原っぱのような公園で、凧揚げや模型飛行機の大会なども開かれることがある——に、それを揚げに出かけるのを見送った。
「あれ、揚げたんだった?」
「揚げたの、揚げたの。なかなか揚げられなくてね。とうとう揚がったんだけど、馴れないふたりで操っていたものだから、下ろすときに糸を巻けなくて、こんがらかったままなの。ほらっ」
 そう云って紙袋をひろげると、そこにおさまっているのは、落ち葉がからみついたもじゃもじゃな凧の糸だ。
「あらま」
「2年も、このまんま。えへへ」
 見れば、とても丈夫ないい糸だ。糸の端をさがしてみる。あった、あった。これこそまさに糸口、などと思っている。それにしても、たいそうなこんがらかりで、ちょっとやそっとでほどけるものではなさそうだ。けれど、それをはじめた手が、もうもう、とまらぬ。
 これをするのより、もうちょっと実りのありそうないくつかの仕事を頭は考えつくのに、手は頓着(とんじゃく)しない。考えついたそのことをするなら、「したらいいでしょう」といった塩梅で、そのじつ、手本人はいっこうにとまる気配がないのだった。
「しかたない」と、まことに都合のいいことばで場をつなぎ、手につられたわたしの全身は、とうとうぺたんと床に坐こんだ。いけるところまでいくらしい。
「えー? ほどくの?」と、驚いて声を上げていた娘も、いつしかわたしのとなりに坐っている。
「あ、こっちの端もみつかった」

 糸と一緒にこんがらかり、そして少しずつほどけながら、ふたりでならんで糸を巻く。さいごのさいごのこんがらかりを解決したときの気持ちと云ったら……。
 しかし、時計を見て驚いた。午後6時半。
 3階の長女の部屋へと上がってきたのが12時半。え? すると……わたしたちは、6時間もここに坐りこんでこれをしていたというのか。
 時間の費やし方として、6時間の費やし方として、それがどうであったかなどと考えることはなかった。気持ちはそのとき、すっと晴れ上がっていた。
 わたしと娘は、その日、時間にもてなされていた。いや、時間をもてなしていたのかもしれない。


Photo

これが、ほどきながら巻きに巻いた
(6時間がかりで)凧の糸です。
芯のなかに、娘と巻きながら話したことについて、
かかった時間のことなど、記しました。
いつか、この糸を使うとき、
それを読んで、笑えるといいなあ、と思います。


Photo_2

大きな大きな和凧です。
お友だちとふたりでようよう揚げたとき、
原っぱに、拍手が湧いたそうです。

娘は、自分の部屋の壁に、
これを飾っています。

|

コメント

いとうさん

わたしも、いつもアタフタです。
だいたい「あわてもの」ですし……。

でも、わざと、
余裕があるように、ゆっくりしたり、
速度を落としたり。
そうでなけりゃ、
駆け抜けて一生おわりってことに
なりそうで。

お忙しいなか、コメントを。
そのことに御礼を云わせてください。

どうもありがとうございます。

投稿: ふ | 2010年11月 7日 (日) 11時03分

バッテリーさん

うつくしい凧ですよね。

長女の部屋に行くたび、
「こんちわ」と挨拶。

時間にいのちを与えるのは、
それを使うわたしたちですね。
ほんとうに。

投稿: ふ | 2010年11月 7日 (日) 11時01分

しょうさん

クロスワードパズルって、
愉快ですよね(わからないときは、喉を
かきむしりますが、そういうところも含めて)。

いろんな時間のもてなしがありますね。
挑戦してみたいです、自然に。

「石坂洋次郎」を思いだすひとができて、
うれしいです。
わたしがうれしい、というのも
おかしな話ですけれどね。
やっぱり、うれしいです。

投稿: ふ | 2010年11月 7日 (日) 11時00分

こんばんは。

時間のすごし方。
最近、アタフタです。
余裕がないです。

でも、こんな風にパソコンでコメントできちゃうくらいですから、
余裕は少しあるのかも・・・。

今度の休みはゆっくりしようかな。
読書もしたいし、掃除もしっかりしたい!

そうそう。衣替えは先週終わりました!(でも1時間30分はかかりました。)
お掃除もしっかりして、いい時間のすごし方だったな~。
今度の休みも、いい時間がすごせるといいな。

では、またきます。

投稿: いとう | 2010年11月 7日 (日) 00時10分

ふみこ さま

写真を見ておもわず 「なつかし~い!」 と
声をあげてました。
学生時代、長崎の五島(福江島)出身のともだちがいて、
彼女の部屋にも飾ってありました。

バラモン凧といって、こどもの節句に、
その成長を願ってあげる凧なんだと、聞いた覚えがあります。

いかにも元気のでそうな凧ですよね。

そのこんがらかった糸をまえに、お二人でついやした、
なにものにも代えがたいじかん・・・
素敵です!

さくさくと予定通りに事がはこんだ時よりも、
後々思い返されるのは、
きっと、こんな時間なんですよねぇ・・・。

投稿: バッテリー | 2010年11月 6日 (土) 18時28分

ふみこさま、みなさま

「時間をもてなす」「時間にもてなされる」という考え方、したことがなかったです。いいですね、いいですね!

そういう家族の時間って何度も「あのときは」って思いだして笑いあって、ずっと残りますよね。私が子供のころ、家族みんなでクロスワードパズルにはまって、どうしても1つがわからなくて、あきらめてみんなで寝た後、私が「!わかった!」と叫んでおきて、また家族みんながパジャマでリビングに集合してすっきりした、という出来事がありました。何度も母とそのときの話をします。私も娘にそういうなんでもないけどなんでもなくはない時間の記憶を持ってほしいなあと願っています。

※前回は石坂洋次郎さんのおすすめをありがとうございます!早速図書館で借りてまいりました。あまりのぶ厚さに通勤電車に持ち込むのは断念したので、なかなか読み進められませんが…(^_^;)「乳母車」、女性ってすごいな!強いな!というのが単純な感想です(笑)

投稿: しょう | 2010年11月 6日 (土) 12時45分

おまきさん

湖。

真似してみます。
とてもいいなあ、と思いました、湖。

湖。

投稿: ふ | 2010年11月 5日 (金) 09時36分

ふみこさま

時間のもてなし。
舟に乗って、湖のうえを、ゆらゆらすすんでいるような、イメージがわきました。

私、心の中を静かにしようとするとき、湖を頭に思い浮かべているのです。そうすると、なぜだかおさまっていく、とげとげ、荒々しさが。私だけの鎮静剤です。

たくさんのお話もされたんでしょうね、お二人。沈黙も楽しまれたんでしょうね。沢山のことを片付けていく六時間も、ひとつの事に向き合う六時間も、どちらの良さも経験してみたいなあ、私も。
さっぱり片付かないなあ、家の中。あ、プリントの一山はなくなりました。

投稿: おまき | 2010年11月 4日 (木) 16時25分

がーねっとBeeさん

なんだか、うれしい!
ニットの貴公子、大好きです。

でもね、 がーねっとBeeさん、
わたしは、四角いものしか編めません。
四角くてもなんでも、
編みものはじめてみようかしら。

そうですかあ、
貴公子のおばあさまがねえ……。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 11時28分

ふみこさん、皆さん、こんにちは^^

こんがらがった糸をほどく才能がおありなら、「編み物がうまいヒト」と、広瀬光治さんの(ニットの貴公子、の、あのお方)おばあ様がおっしゃっていたようです。
ふみこさん、編み物はされますか?

糸って、どんな関わりであれ、「無心」のおもてなしをしてくれます!
思い立ってぞうきんを大量に縫った時、ストレスを忘れたいと、編んだ時…。


娘さんの凧、威厳がある!

流石、「縁起もの」!!
悪運など、「どこ吹く風」です


やっぱり、あげないと、もったいない!

投稿: がーねっとBee | 2010年11月 3日 (水) 10時44分

きんもくせいさん

刺繍のキットをサンタクロースに
たのむきんもくせいさんも、
こんがらかっら糸をほどくお母さまも、
すばらしいですねえ。

童話のように読みました。

どうもありがとう。
ございました。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 10時42分

ゆるりんりんさん

うらやましい!

わたしが、家というものについて
いちばん憧れるのが「障子」なんです。

つい先日も、障子の貼りかえをしているらしい
お宅の前に立って、「いいなあ、いいなあ」と
覗いたりしていました。

家のなかに
障子の貼りかえのような仕事が
あるっていうのは、
いいことですよね。

うーん。
うらやましい……。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 10時39分

saraさん

そんな風に云っていただいて、
あらためて気づくのですけれど、
わたしって、ほんとうに阿呆だなあと
思います。

それに、
思い返せば、ちょっと……
こころが弱っていて、「あんなこと」したかったのかも
しれません。

「ああいう」仕事は、こころに効いたなあと
思うんです。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 10時36分

なすさん

お嬢さんには、
たーくさんの思い出がもうあるのに。
思い出だらけなのに。

何か思い出をつくりたいというのは、
なすさんの思いですねえ。
いいお話です。ほんとうに。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 10時34分

寧楽さん

「こちらの予定にかまわず、話しだす」

いつもいつもお母さんに聞いてもらいたいと、
思いながら日日を過している証拠ですねえ。
話さないときでも、聞いてもらっているような
気持ちでいられるんでしょうね。

それにしても
「厚焼きたまごのきのこあんかけ」
おいしそうです。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 10時32分

マドレーヌさん

いいですねえ、牛乳とお茶で、
一杯やるなんてね。

つくろうと思って
つくれる時間じゃ、ないんですよね。

投稿: ふ | 2010年11月 3日 (水) 10時28分

ふみこさま

ごぶさたしています。が、ブログはちょこちょこ読んでいます(^^)

凧の糸、思い出したのはクリスマスの思い出でした。

子供の頃にクロスステッチのキットをサンタさんにお願いして、
朝起きたら枕元に置いてありました。
もう嬉しくて、みんなまだ寝ていましたが、さっそく開けていろいろ
触っているうちに刺しゅう糸がこんがらかってしまったのです。
ほどこうとすればするほど、こんがらかって・・・
起きてきた母に半ベソをかいてさし出すと、ゆっくり時間をかけて
ほどいてくれました。
「お母さんってすごいなあ」としみじみ思った覚えがあります。

母はこの話、覚えていませんでした。
その刺しゅうキットの額は居間に飾っています。

投稿: きんもくせい | 2010年11月 2日 (火) 17時15分

ふみこ様

あっぱれ!
後で目が疲れたり
肩こりませんでしたか?

時間を超えるって快感ですよね
何かをむきになって夢中になってやるのって
おなかすいてるのも気がつかないで・・・

わたし今日障子の張替えしたんです。
アイロンで貼るんですが、
古い障子をはがすのに夢中になっちゃいました。
アイロンかけるのも
這うようにしてきっちり貼り付けて。

気持ちいい・・・(笑)

投稿: ゆるりんりん | 2010年11月 2日 (火) 15時52分

ふみこさん こんにちは。

やっぱりふみこさんです。
私ならその紙袋を見た時点で「無理」「捨」の二文字しかありません。
もし間違って手を出していても6時間費やしたことに、ブツブツ言っていたでしょう。 「あれもできた、これもできた」と。
ひたすら糸をほどき、巻く、「余裕」-「気持ちの余裕」がないのです。
意識しないと生まれてこないのです。 がふみこさんはひょいっ!とやってしまわれる。 そしてそれについて来られた娘さん、やっぱり「ふみこさん」です。

投稿: sara | 2010年11月 2日 (火) 13時34分

ふみこさま

お嬢さんとの時間、良いですねぇ・・・
うちは、もう無いかもしれません。
きっと、大学を卒業したら関東圏へ就職してしまう
様な気がします。
母の感は結構当たります。

もう覚悟はしていますが、心の隅の隅ではこちらに
戻って就職してほしいとあがいている子離れできない私です。
まだ、もう2年は学生ですからもう少し帰省したら
何か思い出に残る事をしてやりたいと思います。

投稿: なす | 2010年11月 2日 (火) 12時11分

ふみこさま

娘と過ごす大切な時間。
ちょっとした反抗期を
過ぎている最中の
ようなわが娘です。

学校でのこと
友達、ボーイフレンド
の話。
聞きたいときには
答えず、こちらの予定
などかまわず話しだす
といった日々です。


こんがらがった糸は
たくさんのことを
聞かせてくれましたね

先日、私の洋服箪笥を
ひとつ娘に譲りました

いろんなモノを整理し
はなしもしながら
本当にスッキリしました
その日の夕飯は
冷蔵庫にあるもので。

湯豆腐、野菜炒め
厚焼きたまごの
きのこあんかけでした

投稿: 寧楽 | 2010年11月 2日 (火) 10時52分

ふみこ様

娘さんとふみこさんの6時間もの時間の費やし方、私も読んでいて気持ちがすかっとしました。きっと娘さんにとって生涯忘れることのできない母親と二人きりの時間であったのだろうなぁ~とも想像しました。

最近、私はお風呂上りに中学生のムスメからよく声をかけられます。
「ねぇ、一緒になにか飲もうよ」
キッチンで二人並んで立ったまま、お茶とか牛乳とかを一緒に飲むだけなのですが、それがまた楽しみでもあったりします。(^-^)

投稿: マドレーヌ | 2010年11月 2日 (火) 10時26分

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