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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあい、娘3人、黒猫との、5人と1匹暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。
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2012年2月14日 (火)

雛(ひいな)

 立春の翌日。
 そわそわしながら、夫に、「あのさあ」と云う。
「あのさあ、あのさあ……あのさあ」
 と云う。
「何か、ぼくの出番?」
 と夫が訊くので、「箱をね、出してもらいたいの」と答える。
「ああ、茶箱ね」
 夫は、めずらしく勘がいい。そして仕事部屋の奥地(夫の部屋に隣接している納戸を「奥地」と呼んでいる)に置いた茶箱から、大小まちまちの箱を3つ出してくれた。
「ふたりで、あの日にしまったんだったな」
 と云いながら。
 そうそう、それを云いたかった。ひとりで「あの日」を思いだすのは、いやだった。3つの箱は、長女、二女、三女がそれぞれに持っている箱である。なかにはひな人形が納まっている。

 昨年の3月11日、ふたりでテレビの画面に映しだされる驚くべき光景を横目に、ひな人形をしまったのだった。
 そのときのことを、わたしはこう書いている。

   テレビ画面を凝視しながら呆然といている自分に気がついて、とつぜん
  ひな人形をしまうことにした。(中略)おひなさま方に、この状況をくわし
  くは知らさずにおきたいという思いが湧いた。これから先、どんなに過酷
  なことになっていったとしても、来年、またお出ましいただくころにはお
  だやかな日々がもどっているように、あたたかな日射しのなか坐っていた 
  だけるように、と。
   はっと我に返った夫も、それを手伝ってくれた。ひな人形のことをして
  もらうのは、これが初めてである。     (『不便のねうち』※より)

 あの日、「来年、またお出ましいただくころには」と思っていた、その日がめぐってきたわけである。
 おだやかな日々とはまだ云えないいま、未来に向けての大問題も山積しているいま、だが。
「この家の者たちは、なんとかやっています」
 と挨拶する、おひなさま方に。

 そのまた翌日、母が電話の向こうで云う。
「ふと思ったんだけど、うちにあるおひなさまは、アナタのおひなさまよねえ。山本のおじいちゃまが、アナタの初節句に買ってくださったのよねえ。ことしは、アナタに飾ってもらおうかなあと思うの」
 母の口調は、いつもながらおっとりとしているけれど、アナタ、というところだけは「ア、ナ、タ」というふうに、一語ずつ区切って念を押すように云っている。
 わたしのひな人形は七段飾りで場所をとるということもあって、実家に置いたままにしている。その上、この5年ほど、それを自分の手で飾っていない。母と子どもたちにまかせきりにして。
「ことしは、飾りに行く」
 と約束する。

 つぎの日曜日。実家へ行き、おひなさまを飾る。
 わたしの初節句というのは1959年(昭和34年)だから、このおひなさまも、50歳を越している。
「ずいぶん、長くやってまいりましたね、お互いに」
 と思わず、挨拶。
 五人囃子の5人のうち、2人までが額髪を広く剃りあげているので、烏帽子をかぶせるのに苦心しながら笑う。かぶせるとき、いつも苦心し、五人囃子の面面に文句を云うのがならいだったことを思いだして、笑う。
 それにしても。わたしは半日はかかる飾るしごとと、しまうしごとを、母にまかせきりにしてきたのだなあ。段段をつくるのなんかは、かなり重労働だ。「あ、そこ、押さえてて」ともうひとりに頼まなければ、自分の足で押さえていなければならない。
「これからは、自分で飾って、しまうからね」
 と、両親にお辞儀する。
 おひなさま方にも、お辞儀する。

 おひなさまは、不思議だ。
 何もかもを、見通しているように思える。すました顔で、何もかも。


Photo_6

飾りかけのときの写真です。
屏風もまだだし、髪も乱れていますが、
ああ、うつくしいなあと思わず、シャッターを切りました。
昭和34年の「ご成婚」の年だったので、
お顔を美智子さまに似せてつくられたという人形だそうです。

Photo_7
おひなさまのお道具が、好きで、
子どもの頃は、こっそりおままごとに拝借しました。
とくに、気に入りの火鉢です。

※『不便のねうち』(山本ふみこ/オレンジページ)
2月17日、このブログから5冊目の本が刊行されます。
どこかで見かけたら、どうか手にとってご覧いただきたく、
お願い申し上げます。

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コメント

えぞももんがさん

ちょうど、「吊るし雛」を、
ニュースのなかで見たのでした。
いいなあ、愛らしいなあ……と思いました。

えぞももんがさんのお宅に、
「吊るし雛」が。
想像するだけで、胸のなかがあたたかくなります。

考えたら、
東日本大震災のために、
きっとたくさんのおひな様が、
いなくなってしまったわけですね。
もうすこし彼の地が落ち着いたら、
ひな人形を贈りたいなあと思います。
お好きなのを選べるように、
「ひな人形基金」とか。
「鯉のぼり基金」とか。

投稿: | 2012年2月20日 (月) 09時55分

ふみこ様

おはようございます。 
この冬は 日本列島が すっぽり 厳しい寒さに覆われていますね。
昨夜のニュースで関東地方の雪を見ました。
風邪など ひいていませんか?
北海道も 雪の量が多く 最低気温も低い日々が
続いています

そんなこともあって
私も いつもより 早く 立春に母が作ってくれた
吊るし雛を飾りました。
「家の中を 賑やかにしたい。」
2月は やっぱりそう思ってしまいます。
子どもの頃 実家には お雛様がなかったので
小さな折り畳みのテーブルに紅めの風呂敷をかけ
持っている ありったけのお人形を並べて
お雛様ごっこをしました。懐かしいです。

今年も こうして 春を待てることを
嬉しく思いながら 雛飾りを見ています。

投稿: えぞももんが | 2012年2月18日 (土) 05時44分

梨. さま

いらっしゃいまし。

「 梨. 」さん。
もし、わたしの知っている「 梨. 」さんなら、
つねに忘れることなく、
敬っております。
……大好きってことです。

え?
イタリア?

うれし。

ふんこ

投稿: | 2012年2月15日 (水) 22時05分

こぐまさん

ぱーっと晴れた日にね。
考えたことなかったけれど、それ、いいですね。

こぐまさんのおひな様に、
よろしくお伝えください。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 22時02分

お雛様の火鉢 いい感じですね。 

Ciao !

遠く北イタリアの空の下で、
ほとんど忘れかけていたタイムカプセルを
開けてしまった!

私もふんこのタイムカプセルの
うんと下のほうに、
まだ存在しているのだろうか?

日本から持ってきた、私の小さなお雛様は
なぜだか
お守りのようなものになっています。
私を、お守りしてくれています。

お雛様が縁で
こんな久しぶりにも
ありがとう。

梨.

投稿: 梨. | 2012年2月15日 (水) 19時18分

ふみこさま。

こんばんは。
あーっ、まだ おひなさま だしてないっ。

今日、だそうかな と思ったのですが
雨が降って曇り空。
なんか、おひなさまには、ぱーっと晴れた日に
でてもらいたくて、ちょっと我慢してもらっています。

明日こそは。

では、またぁ。

投稿: こぐま | 2012年2月15日 (水) 17時54分

ゆるりんりんさん

ずれてゆく。
なんて、素敵な「ずれ」でしょう。

いいご夫婦ですね。
わたしも、ちょっと「ずれて」みよう……。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時55分

ももさん

お大事に、皆さんを。
でも、ももさん、
たのしそうです。

そんなにして、佳い春を迎えてくださいね。

おひな様も、ゆっくりと。
まだ、寒いですもの。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時54分

ぞみさん

お嬢さんとご実家へ。
おひな様、喜ばれるでしょうね。

わたしのおひな様も、
喜んでくれているのが、わかりました。
ああ、よかった、と思いました。

ひな祭りが、穏やかな、素敵な春を……。
ほんとうですね。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時52分

どりすさん

わたし、「鯉のぼり」にあこがれています。
そんなたのしいわけで、
「鯉のぼり」を持っておられるとは。
うらやましいこと。

もうすぐ桃の季節。
ほんとうだ。
花、見たいです。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時49分

Koujiさん

恩寵にしてゆかなければ、ね。
すべて、そう思えるように生きてゆけたら……。

Koujiさん、ありがとうございます。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時47分

寧楽さん

ね、おひな様って、不思議な存在ですよね。
おろそかにはできないなあと、思わされます。
一年に一度しか会えないということもあるけれど、
会えるのは、うれしい……。

自分の暮らし方を、じっとみつめられているような
気持ちにもなります。
お出ましいただいているあいだ、
いろいろ召し上がっていただきます。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時46分

rantanaさん

rantanaさんのおひなさまは
飾られますか?
わたしは、うちに、自分用として、
二女が保育園時代につくったひな人形と、
実家から持ってきた豆粒のような立ち雛を
飾っています。

それとね、
若いころ伊豆で買った、
おひなさまが描かれたそてつの実も。
(え、そんなにするのか)と思ったのでしたが(当時)、
いまは、そのくらいはするだろうと思えます。
値段のはなしです。
つまり、気に入っているということ。

へんな話を長長と。
ごめんなさい。

投稿: | 2012年2月15日 (水) 11時42分

ふみこ様
 
小さかった頃
お雛様を見ながら
自分も誰かのお嫁さんになって
ああやって二人で座るのかなあって
夢見ていた時期があったなあ・・・
それから信じられないような月日が流れ
気がつけば
二人でいますが、夫婦漫才・・・
女の子のお祭りの日から
夫婦を確認する日に
意味がずれだしています。
それもありかな。

投稿: ゆるりんりん | 2012年2月14日 (火) 21時58分

ふんちゃん

 娘のインフルエンザが去って、しばし平穏…と思っていたら、
 3番目4番目の息子が、二人揃って発熱…。
 今日は、様子を見ていたのですが、明日は病院へ行かなければなぁ…、です。
 ちびがかかると、娘の時と違って、あれこれ手間がかかるので、
 ふぅ…という感じです。
 それでも、今日一日、仕事を休み、しばらくぶりで子どもたちにまみれて過ごしました。晩御飯も適当に、お風呂もサボってしまいました。
 絵本を読んだり、工作を手伝ったり…。
 夜に度々起きてくれるので、体力的にはしんどいのですが、
 何だか、子どもたちとゆっくり過ごせたような気持ちになっています。
 (インフルエンザも悪くない…)
 こっそりとつぶやいて、自分を励ましている気分です。に~っ。

 それにしても、我が家のおひなさま…。
 まだ暗闇の中です。
 息子がばあちゃんに告げ口です。「うちのお雛様、出てこないんだよ~」
 あ~、ちょっとまってぇ~。
 もう少ししたら、明るいところへと招こうと思います。

 みなさまも、どうか、お大事になさってください…

投稿: もも | 2012年2月14日 (火) 21時17分

ふみこさん、みなさん、こんにちは。

お雛様、本当に素敵です。
背景の障子が、さらに引き立てていて。
美智子様にも、似ていらっしゃいますね。

私も、ふみこさんと同じように
実家に置きっぱなしになった7段飾りが
あります。今までは遠く離れていたので
飾るのを手伝うことも出来なかったけど、
今年は娘と飾りに行きたいなぁ、と思っています。

ひな祭りが、素敵な春を運んできて
くれますように。。。

さて。
これから、主人と息子のために
チョコを溶かして固めます。笑

投稿: ぞみ | 2012年2月14日 (火) 13時23分

ふみこさま、みなさま、こんにちは。
うちにはお雛さまが、いらっしゃいません。
でも、どういうわけか、「わたしの」鯉のぼりがいます。
男兄弟がいたわけでも、私が実は男性だったわけでもありません。
生まれたての私の顔だけを見て、早とちりした親戚が
用意したそうです・・・
子供の頃は、どうも合点がいきませんでした。
今となっては、マイ鯉のぼりにも愛着が。(不自然ですけど)
ああ・・でも、やっぱり、お雛さまの前に佇みたい。

お雛さまのまなざしが、いつも穏やかでいられますように。
そんな日が必ず、訪れますように。
もうすぐ、桃の季節です。

投稿: どりす | 2012年2月14日 (火) 12時58分

ふみこさま、みなさま、こんにちは。
 
雨のバレンタインデーです。
前回のコメントしたときも雨でしたね。
そして、この雨は天からのプレゼントなのだろうか、とおもい、自分の発想におもしろみをかんじていますが、おもしろいというか、紛れもなくプレゼントなのでしょうね。
雨、に限らず。
去年の災害にあわれ、いまも大変な状態にいらっしゃる方の気に障るかもしれませんが、ある方がおっしゃった「天罰」ではなく、もしかすると恩寵であったのかもしれない、となんとなくおもわなくもありません。
というか、恩寵にしてゆかなければならないのだろうなとおもっています。被災にあわなかった自分には、そう努めてゆく必要があるのだとおもっています。
努める…
なにを努めるのか。
心がけというのでしょうか。
美しいお雛さまのように、澄んだ心もちでゆけたらいいなぁとおもいます。
 
前回のお皿。頁をくくり、みつけました。
そのときのふみこさんの文が、とても示唆にとんでいて、いままた読むべきものであるとかんじました。

投稿: Kouji | 2012年2月14日 (火) 12時36分

ふみこさま
 

面差しがなんとも凛として
気品のある雛です。

我が家もおひなさま、にぎやかしく
華やかです。

3月生まれの娘に
ひいなと名付けたかった私です。

ちがう名前にはなりましたが

昨年のこと、よく覚えています。

慌てて、おひなさまをしまいました。

ほんとうに心躍る春がやってくること
願ってやみません。

投稿: 寧楽 | 2012年2月14日 (火) 12時11分

ふみこさま、みなさま こんにちは。

おひなさま、おきれいですね。
心優しいお顔で、そこにおられる。いいですね。
うちには、娘がいないので、クリスマスツリーと違って
子どもたちを巻き込めなかったのでありますが。

こざっぱりから、まだ、片付けたがって、足りないくらいへ。
そして、不便のねうち、なんですね。
ご本の題名が先鋭化していて、方向性がくっきり。
ついて行きますね。

さてはて、3月11日という日付を聞いても
どきりとせずに過ごせる日がいつか訪れますよう。

投稿: rantana | 2012年2月14日 (火) 11時46分

まきはやさん

ありがとうございます。
手は、元気にしています。

原稿を書くのにはパソコンを使いますが、
文字を手で書くのが好きだし、
大事だと思っているので、
できるだけ書こう、書こうと努めています。

絵もちょっと描くのですが、
それも、わたしには文字を描く延長です。

3月11日がめぐってきたら、
「まきはやさんのおうちの王子さま、
おたんじょうびおめでとうございます」と
云います。
いいことをおしえていただきました。

投稿: | 2012年2月14日 (火) 11時28分

おひなさま うちも 立春に出しました。
月遅れの4月3日まで 静かに 穏やかに 座っていてください って 今、改めて声をかけました。

手の調子はいかがですか?

私は 要約筆記という 耳の不自由な方に 相手の言葉を その場で書いて伝えるという仕事をしています。

しばらく ペンをもてなくて お休みしていたのですが、復帰しました。休んでいる間に 書くというこのしごとが 大好きだと 改めて気がつきました。。

転んでも ただでは起きないって 感じかな。

ふみこさんも 無理せず、ぼちぼち。


3月11日 は息子の誕生日です。
いつもと同じく 祝える幸せを かみしめたいです。

投稿: まきはや | 2012年2月14日 (火) 10時36分

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